結婚とは、夫婦とは 時間の積み重ねが築く関係 ゲスト 行定勲 監督


たくさんの結婚式を手がけてきた結婚式屋の社長・野尻佳孝。33歳、独身である。その理由は……「好きな人には超シャイで、恋愛下手」(本人申告)なのだった。そこで、「愛について、この人に聞きたい」と、映画監督の行定勲さんをお招きした。


結婚は、いい意味でのリスクを背負う自分たち二人だけじゃない関係性

野尻:

行定さんは、いつ結婚したんですか?

行定:

24歳のときです。あっさりしちゃいましたね。もう13年目。

野尻:

周りと比べても、早かったでしょ。

行定:

うん、早い。でも僕は、結婚して早く家族を築き子供をもつというのもいいかなあと。映画監督なので、自分自身がいろいろなことを知りたいし、経験できることはしておきたいという気持ちもあったから。いろんな愛情の形を知っておかないと、映画を作るときに切り込んでいけないから。


   
野尻:

結婚して何か変わりました?

行定:

うーん、結婚してみて、結婚と恋愛とは違うんだなと。恋愛だったら、お互いに「何かが違う」と思えば別れるしかないし、別れられる。一方結婚は、互いの家族までかかわってくるから、自分たちの気持ちだけでは済まなくなる。たとえ僕が他の女性を好きになっても、じゃあ、離婚しましょうとはならない。悲しむ人の数が増えるから、夫婦だけの問題じゃなくなってくる。いい意味でのリスクを背負うのが結婚なのかもしれない。

 
 
ホームパーティの後の夫婦が台所で並んで皿洗いをしている姿って至福の時だと思う
行定 勲 (Isao Yukisada)
68年生まれ。熊本県出身。『OPEN HOUSE』で監督デビュー。代表作に『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』『北の零年』など。 今、日本映画界で最も注目を集める。行定監督作品の女性たちは、みな、一本の映画の中で強く凛とした女へと脱皮していく。女は強いもの、男はダメなものとの一貫した視点で、男と女の関係を描き続けている
なにげない時間を一緒に過ごすことができるのって、理想だな
「いい結婚」の鍵は二人の時間の過ごし方にある
野尻:

僕、経験がないからわからないんですが、いい結婚というのは、どういうものなんでしょうね。

行定:

若い頃に、ある作家夫婦が主催したガーデンパーティに行ったんです。夜になってみんなそれぞれ帰っていく。僕は近くに住んでいたから、片付けを手伝うために残っていたんだけど、ふと見たら、その夫婦が台所で並んで皿洗いをしている。ふたりでパーティの内容を考え、みんなを楽しませてもてなして、最後は夫婦で皿洗い。これって、別になんてことない光景だけど、このふたりにとっては至福の時と言えるんじゃないかなあと感じたんです。 僕は邪魔だな、と思って帰ろうとしたら、「行定くん、梨をむいたから食べていきなさい」なんて言われて、結局、リビングのソファで泊まってしまった。夫婦のいい時間を邪魔してしまったようで、いまだに気になっているんですけどね。

野尻:

いいですねえ、そういうの。ふたりで皿を洗いながら、「今日はみんなが楽しんでくれてよかったね」なんて、ぽつりと言い合ったりしてね。

行定:

僕なんてまずないから、そういうの。カミさんはパーティには来ないし。


   
野尻: 来ないんですか?
行定: カミさんにとって、僕は「公共の人」なんです。最寄り駅に着いたら、「うちのパパ」でいてほしいと思っているみたいだけど、家を出て隣の駅に行ったらもう「公の人」らしいです。
野尻: 結婚当初から、そんなふう?
行定: 結婚してからいろいろあって、だんだん、そう思うようになったみたいですね。だから、「外でいい出会いがあるなら、それはそれでいいんじゃないの」というのがカミさんのスタンス。彼女にとっては、そう思ってないと家庭生活なんてやっていけないんじゃないかな。僕はテレビに出たりメディアでしゃべったりしているし、それをいちいち気にしていたら、結婚生活なんてうまくやっていけない。
野尻: でも「どうして私をパーティに連れて行ってくれないの」という人も多いでしょう。
行定: でしょうね。でも、夫婦を長くやってくると、仕事がうまくいっていることが夫の人生にとっていちばん大事なことだ、と思うようになるみたい。うちの場合はね。いちいちついて歩いて監視しているようなことになると、僕の自由がなくなる。自由がなくなると、僕のような仕事には悪影響がある、とカミさんは思ってる。
野尻: そういうことを夫婦で話すんですか。
行定: よく話しますよ。実際、美しい女優さんたちと仕事をしているわけだし、カミさんにしてみれば、疑い始めたらキリがない。僕自身は、外で何があろうが、きちんと家には帰っているし、そのことで家庭生活を乱したりはしない。だからこそ、カミさんは、「仕事がうまくいけば、この人は満足している」と理解してくれているような気がしますね。
野尻: 夫婦って、奥が深いな~。

結婚式は、まだまだスタート地点何年、何十年もの時間が二人の絆を深めてゆく

行定:

最近の趣味は、草むしりなんです。庭でガーデニングしたり、茄子を育てたりしてて。カミさんと二人で並んで草むしりをしながら、なんとなくしゃべってる。これっていいなあ、と自分でも思いますよ。普通の時間をいかに過ごすか、日常の時間をいかにして耐えるか、楽しむか。それが夫婦にとっては大事なのかもしれません。

野尻:

僕も、普通の時間を一緒に過ごすことができて、それが心地よく思えるような相手が理想だな。

行定:

だから、結婚式を挙げてるときなんて、男と女としては決してゴールじゃなくて、まだまだスタート。途中なんです。僕は、浮気をしたから別れるとか、熟年離婚とか、愚かだなあと思いますよ。その先に絶対、何かがあるのに、そこまで耐えられないのかと。何のために今までふたりの時間を積み上げてきたのか、そこには何もなかったのか、と言いたくなってしまう。結婚なんて、どちらかが死ぬときにならないと、何もわからないと思う。結婚式の仕事をしていて、感じるときはない?

野尻: ありますよ。結婚式ってみんな幸せな顔をしているんだけど、その中にもいろいろな色と顔があるんです。実際、僕の会社であった結婚式で、大人になった娘さんが「うちの両親は若い頃貧しくて結婚式を挙げられなかったから、式をプレゼントしたい」ということがあったんです。お父さんには食事会だと嘘をついて、最後にお母さんがこっそりウエディングドレスに着替えて登場した。そのときのお父さんの顔が忘れられません。若い人たちの結婚式も初々しくていいけど、何十年も共に苦労してきた夫婦の結婚式というのは、愛情を再確認できた、という深い喜びに満ちている。やってよかったなあ、とこっちも本当にうれしくなりましたね。

   
行定:

そういう話を聞くと、けっこうぐっと来ちゃう。恋愛もそうかもしれないけど、結婚こそ、まさに積み重ねが大事だということだね。

text : Sanae Kameyama 次回へ >>
photo: Kaoru Iwatani
  place: SHOTO GALLERY
結婚式はゴールじゃなくて、、男と女の関係のまだまだ途中

『春の雪』
大正初期の貴族社会を舞台に、侯爵家の子息・清顕と伯爵家の令嬢・聡子の愛を描く。偽り、すれ違い、そして命がけの密会――究極の恋愛物語だ。こだわりの美術、セット、衣装とカメラワークが奏でる映像美も見もの。美輪明宏氏らも賛辞を寄せる話題作。全国東宝洋画系にて公開
春の雪
(C)2005「春の雪」製作委員会

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  野尻佳孝 (Yoshitaka Nojiri)
株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 代表取締役社長
72年東京生まれ。大学卒業後、住友海上(当時)に入社。友達の結婚式に招かれた時、「自分の仕切る二次会の方が、断然面白い。だったら……」と、98年10月に同社を設立し、ブライダル業界に参入。たった1畳のオフィスからスタートし、ハウスウエディング市場を作り上げた


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