僕、恋愛下手なんです ゲスト 行定勲 監督


たくさんの結婚式を手がけてきた結婚式屋の社長・野尻佳孝。33歳、独身である。その理由は……「好きな人には超シャイで、恋愛下手」(本人申告)なのだった。仕事も男同士の遊びも、超パワフル。なのにここ数年、実は「片思い」ばっかりの日々だった。最近ようやく恋の噂も聞こえてきたが、「恋愛下手な性格をなんとかしないと、春は訪れない」と、真剣な眼差しで恋愛修行を志願した。「愛について、なんとしてもこの人に聞きたい」とお招きした第一回目のゲストは、映画監督の行定勲さん。『世界の中心で愛をさけぶ』『春の雪』など、愛を描いたら当代一の監督である。


好きな人の前で素直になれない男という不思議な生き物

野尻:

実は僕、ものすごく恋愛下手なんです。恋愛を始めるところまで、なかなか行き着けない。やっと付き合えたと思っても、「仕事ばっかりだ」とフられたことも……。だから今日は、行定さんに恋愛上手になるコツを伺おうと思って(真剣)。

行定:

僕なんて、自分がダメダメな男だってアピールするのが口説き文句みたいなものだから、コツなんて言われても(笑)。

野尻:

えっ、ダメな男だってアピールしちゃうんですか? 普通、男って好きな女性にコンプレックスだとか格好悪いところ、見せたくないものでしょう。

行定:

いや、だからその分仕事は頑張ってますよ。映画監督としてもダメ、自分もダメだとどうしようもないから。僕、嘘はつかないことにしてるんですよ。素顔はダメな男だと嘘偽りなく言います。昔、初恋の女の子に嘘をついて、すごくつらい思いをしたことがあるから。

小学生のとき、好きな女の子と一緒にウサギの飼育係をしていたんです。夏休みに、家族旅行をすることになったものの、なんだか格好悪くて彼女に言えなかった。『法事がある』と嘘をついて、地元の熊本から長崎へ旅行に出掛けたわけ。だけど台風が来てね、彼女がウサギ小屋にいるんじゃないかと気になってしかたがない。それで、ひとりでフェリーに飛び乗って熊本へ帰ったんです。そうしたら、本当に彼女、ウサギ小屋に段ボールを張ってひとりで守っていた。 オレ、初めて女の子の前で泣きましたもん。「ごめんなさい」って。それで包み隠さず本当のことを話したら、「正直に話してくれたから、許してあげる」と。子供心に、彼女が女神に見えましたね。それ以来、女性の前で嘘をついちゃいけない、と心に刻んだわけです。ダメな自分を見せちゃった方がいいんですよ。


   
野尻:

ダメな自分を見せるって……。

行定:

先制攻撃ですよ。もう最初に、見せちゃう。

 
 
自分がダメダメな男だってアピールするのが口説き文句みたいなものだから
行定 勲 (Isao Yukisada)
68年生まれ。熊本県出身。『OPEN HOUSE』で監督デビュー。代表作に『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』『北の零年』など。 今、日本映画界で最も注目を集める。行定監督作品の女性たちは、みな、一本の映画の中で強く凛とした女へと脱皮していく。女は強いもの、男はダメなものとの一貫した視点で、男と女の関係を描き続けている
僕、好きな人ができると、その人の前でしゃべれなくなっちゃうんですよ
気合が入りすぎて、ぎこちないダメな自分を見せられれば、らくなのに
野尻:

それができるのが羨ましい……。今日の一番の相談は――僕、好きな人ができると、その人の前でしゃべれなくなっちゃうんですよ。格好いい自分を見せたい気持ちが強くて。30代に入ってからも、1年もの間、片思い。もちろんその相手とは、その1年、ほとんどしゃべれなかったんですけど。メールだって、一通打つのに1時間。

いいなと思っている女性と初めて2人で会ったときなんて、最悪ですよ。会話を楽しくしなきゃとか、もう、力が入りまくり。頑張ってしゃべってみても、「オレ、何でこんなにつまらない話をしてるんだ」って、もう一人の自分から突っ込みが。

行定:

レベルの高い女性に、片思いしてない?

野尻:

そういう問題じゃないんです。好きになったら最後、この症状が出ちゃう。普段の僕を知っている友人たちは、そのしゃべれなさに爆笑。ほとんど病気の域ですよ(笑)。僕はチーマーの走りなんです。高校生のころから、新宿の古着屋さんで革のジャンパーを売ったりして儲けてた。そのころから格好つけて、渋谷のセンター街をのして歩いてたから(笑)、「オレから女の子にモーションかけるわけにはいかないぜ」みたいな硬派な気分をどこかで引きずっているんですよね。

行定さんの話を聞いていて、いいなあ~って。最初からダメなところを見せて、その部分も含めて好きと言われるのが、ベストなのに……できない。

行定:

だって、仕事はダメじゃないでしょ。誰が見たって。「仕事は頑張れるんだけど、オレってこんなとこ、ダメでさ~」と。そのギャップがいいと言うかもしれないじゃない。

野尻:

片意地を張っちゃう自分がいて。映画『春の雪』の主人公・松枝清顕みたいに、好きな女性の前では、どうしても行動が裏目裏目に。たとえば、みんなで食事会しました。すごくいいなと思う女性がいました。で、その子に話し掛けられても、素っ気ない答えしかできないんですよ! 「質問されてるんだから、いっぱい答えろよ」と思っても、ちょっと答えて、すぐに違うところに目線を送っちゃう。

行定:

それはいけない。目線を外したらまずい(笑)。野尻さんは結婚式屋という、人を幸せにする仕事をしているわけだから、僕なんかよりずっと楽しませられると思うけどなあ。

野尻:

好きな人以外は、楽しませる自信がありますよ!(笑) 人を楽しませるの、大好きだから。


   
行定:

でもしゃべってないのに、好きになるって?

野尻:

友だち付き合いから始まるから。で、好きになればなるほど、どんどん無口に……。

行定:

そうだ! ラブレターどう? 好きだということを手紙に書いて、女性に渡す。好きとの気持ちさえきちんと相手に伝わっていれば、仲間と一緒にいるとき彼女に素っ気なくてもわかっているから大丈夫でしょ。

野尻:

やっぱり手紙か~。

行定:

野尻さんは、「好きな人を逃したくない」という気持ちが強いのかもね。

僕の頭の中で、映画ができあがりつつあります。主人公は恋愛下手な野尻という男。彼はある女性を好きになっているんだけど、なかなか表現できずにいる。あと一歩で成就するのに、最後の勇気を振り絞れない。そんな彼のよさを1時間、1時間半と映像で積み重ねていって、ようやく彼女に「君のことが好き」と言う。すると彼女は、「そんなことわかってるわよ」と。そのときの野尻さんの顔が見たい。いったい、どんな表情をしているのか。きっと、恥ずかしがって彼女にくるりと背を向けてダーーーっと走り去る。その後ろから彼女が「待って~」と追いかける。そこに流れるのは槇原敬之の歌。「頑張れ~」って(笑)。

男って、実は臆病だから恋愛は女が仕掛けないと始まらない

行定:

今は男から仕掛けにくい時代になっている気がするんですよ。僕が女性によく言うのは、自分から合図を出せ、と。たとえば飲みに行ったとき、多少なりとも気があるなら、しゃべっている最中に、「もう!」と肩を叩いてくれるだけで、男はぐんと楽になる(笑)。「おっ、オレに気があるのかな」と頑張れるわけです。何も合図がないと、男はどう対処したらいいかわからないものなんです。 今はメールだってあるわけだから、一度会って話して、気になったら、女性から「今日はありがとうございました。また話を聞かせてください。(ふたりで)」なんていうメールを送ってくれれば、男はイチコロですよ。

野尻:

男は臆病だから、自分から誘うのは照れるし、相手の気持ちがわからないとどうしたらいいか困ってしまう生き物なんだって、女の人にもっと知ってほしいな。


   
記者:

ところで、野尻さん。最近、好きな人ができたとの噂が。今回はしゃべれたんですか?

野尻: もちろん最初は、例によってやっぱり緊張しまくり。途中トイレに立って「オレ、なんでつまらないことばっかり、しゃべってるんだ!」と顔をバシバシ叩いたり、相変わらずの状態だった。僕の恋愛はいつも、何度か会ってもしゃべれなくって、結局「オレってやっぱダメだ~」と尻すぼんじゃうパターン。でも今回は……。ある時、メールをしたんです。「つまらない話で、すみませんでした」って。そしたら勇気付ける返事が戻ってきて。だから、恋愛下手なりに、頑張れたんですよ。
text : Sanae Kameyama 次回へ >>
photo: Kaoru Iwatani
  place: SHOTO GALLERY
 
しゃべっている最中に、「もう!」と肩を叩いてくれるだけで、男はぐんと楽になる

『春の雪』
大正初期の貴族社会を舞台に、侯爵家の子息・清顕と伯爵家の令嬢・聡子の愛を描く。偽り、すれ違い、そして命がけの密会――究極の恋愛物語だ。こだわりの美術、セット、衣装とカメラワークが奏でる映像美も見もの。美輪明宏氏らも賛辞を寄せる話題作。全国東宝洋画系にて公開
春の雪
(C)2005「春の雪」製作委員会

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  野尻佳孝 (Yoshitaka Nojiri)
株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 代表取締役社長
72年東京生まれ。大学卒業後、住友海上(当時)に入社。友達の結婚式に招かれた時、「自分の仕切る二次会の方が、断然面白い。だったら……」と、98年10月に同社を設立し、ブライダル業界に参入。たった1畳のオフィスからスタートし、ハウスウエディング市場を作り上げた


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