翌日になって、直樹から何度も電話がかかって来たけど、無視した。
“こちらに非がある時は、むしろ、徹底的に強気に出るのだ”と、いつだったか、
事務所のお局様の平田さん(43歳、独身、趣味は俳句)に言われた。
まあ、平田さんは、そのせいで、男よりも俳句を取ったのかもしれないけど・・・。
ここで、直樹に媚びてしまったら、結婚後のイニシアチブを握られてしまう。
天下分け目の一戦なのだ。
そうこうしているうちに、突然、直樹が事務所にやって来た。
以前に、ビルの前までは迎えに来て貰ったけど、スタッフに顔を晒すのは
初めてだ。
「圭子のフィアンセです」なんて名乗るものだから、
みんなから「おめどとうございます」なんて祝福を受けている。
恥ずかしい。
一応、みんなにはイケメンって言っておいたのに・・・。
パステルの箱を提げて、「よっ!」と私に笑顔を見せた。
本人は、小池鉄平ばりの笑顔を見せているつもりなのだろうが、どう見ても、
朝帰りの親父みたいだ。
「じゃあ、Gホテルにしようよ」
直樹は、業務連絡のように言った。
私は、なんだか、腹立たしくなって、「T&Gに決めたから」と言ってやった。
本当は、どっちでもよかったんだけど、思わず言ってしまった。
私は、わかっていた。
直樹に怒っているんじゃなくて、自分に怒っているんだ。
「そうだね。
ハウスウェディング、流行だもんね」
直樹は、私の機嫌を取るように言った。
やさしい奴だ。
私が今まで、愛したどんな男よりも・・・。
もちろん、藤川さんよりも・・・。
直樹が、もし、藤川さんだったら、婚約した私の気持ちを迷わせるような
ことをせずに、「おめでとう」とだけ言って、姿を見せないだろう。
私を困らせないように・・・。
直樹を選んでよかったと思った。
私は、そんな気持ちとは裏腹に、直樹に言った。
「仕事場には来ないでよ」
私は、そう言えることに愛の喜びを感じていた。
