会場をGホテルに決定しようかと、直樹の携帯に何度もかけているのに繋がらない。
留守電にも残しているのに・・・。
いい加減、頭に来て、「30分以内に連絡がつかなければ、婚約を解消します」と
メッセージを入れたら、それから5分後にかかって来た。
罵声を浴びせてやろうと思ったら、直樹の様子がおかしい。
逆ギレしているかのように、不機嫌だ。
温厚な性格の直樹にしては珍しい。
初めて、噛み付いた子犬のようだ。
「なんか、言いたいことがあるなら言いなさいよ」
事務所があるビルの非常階段に出て、私が言うと、直樹が言い返した。
「元彼に会ったろ?」
がび~ん!
何で知ってるんだろう?
私の頭のパソコンが高速でデータを検索した。
知り合いに目撃されたのか?
そもそも、私が藤川さんと付き合っていたのを、なぜ、知ってる?
私は、自分の劣勢を否定するように言った。
「馬鹿じゃないの?」
答えにならないことはわかっているが、こういう時はまともに答えていたらだめだ。
「麻布十番のバーで飲んだろ?」
やはり、月光浴で誰かに目撃されたのか?
「何のこと?」
「高校時代の友達とばったり会ったって言ってた日だよ」
「そうよ、彼は高校時代の友人だもん」
「おまえ、女子高だろう?」
「女子高だって、男の友達くらいいるわよ」
「だったら、そう言えばいいだろう?」
そこで、私はピンと来た。
その男が“元彼”ってことまでは、バレていない。
直樹は、鎌をかけているだけなのだ。
そうとわかれば、話は簡単だ。
「くだらない」
私は、そう吐き捨てるように言って、携帯を一方的に切った。
愛とは、信じさせることなのだ。
