あれから何回か、携帯に藤川さんからの着信があったけど無視した。
それは、もしかしたら、普通の用件だったかもしれないのに、私には
電話を取る勇気がなかった。
今度、「結婚なんか辞めちゃえよ」と言われたら、自分はどうするだろう?
この間と同じように、冗談まじりに断れるだろうか?
いや、自信がない。
むしろ、藤川さんへの思いが再燃して、私の方から「会いたい」と言って
しまうだろう。
でも、私は、29歳だ。
そのかすかな光を頼りに森の中へ歩き出すことはできない。
もう遠回りはできないのだ。
私は直樹と結婚し、子供を大急ぎで二人産まなければいけない。
ふと気づくと、私は、また、唇に指先を当てていた。
直樹がお気楽に『キューティーハニー』を歌いながらやって来た。
「倖田來未はいいなあ。
色っぺえよな」
うちの近未来ハズバンドはしあわせだ。
おそらく、悩みというものがないのだろう。
言い方を変えれば、馬鹿だ。
ここで全未婚の女性に結婚の格言。
「遠くの素敵な人より、近くの馬鹿」
さらに、直樹は全くストレスを感じていないつやつやした顔で言った。
「結婚式場、決まった?」
その瞬間、私は殺意すら覚えた。
すべて、私にやれってのかい?
直樹が、いつもよりサボテンに見えた。
私の中では、六本木のGホテルかハウスウェディングのT&Gかに
絞り込まれていた。
「どっちがいいと思う?」
「やっぱり、Gホテルじゃないの?
有名だし・・・」
「でも、Gホテルは貸切じゃないし・・・」
「じゃあ、ティーアンド何とかは?
ハウスウェディングは流行だし・・・」
「でも、T&Gは、ちょっと高いんだよね」
ある男性が言っていた。
『二者択一で聞かれた時、どっちがいいと答えても、女は文句を言う』
その通り、私は直樹がどちらを勧めても文句を言っていた。
♪ だって、だってだって女の子なんだもん。
