銀座の「三笠会館」で、直樹の両親とうちの両親と会食した。
予約する時に、「和食とフランス料理とどっちがいい?」
と直樹に聞かれたのだが、「そりゃあ、両家の初顔合わせと言えば、
フランス料理でしょ?
家を出る時、父親の岩男は、「あらかじめ言っておくが・・・」
と切り出したので、何か、シビアなことを言うのかと思ったら、
「かたつむりは食えんぞ」と言った。
岩男は、フランス料理=エスカルゴだと思っている。
「殻に入ったなめくじだと思えばいいじゃない?」
と言ってやったら、余計、ブルーな顔をした。
母親の敏子は、「フォークとナイフがいっぱい出て来るんでしょ?
間違えたら、恥ずかしいわ」と心配していたので、
「最近のフランス料理は、フォークとナイフを使いやすいように、
給食の時に出る先割れスプーン1本なのよ」と嘘を言ってやった。
というわけで、フランス料理「榛名」の個室で、私たちは、顔合わせした。
・・・気まずい。
話が盛り上がらない。
直樹に目で「何か、口火を切りなさいよ」と合図したら、直樹が言った。
「アスベストは、大変ですよね」
おい!
婚約後の初顔合わせに、アスベストの話題かよ!
直樹は、いい奴なのだが、空気が読めない。
「理科の実験でも、石綿金網がなくなりましたからね」
岩男が答える。
「政府の対応が遅すぎますな」
直樹の父親が言う。
「だって、ずいぶん、前から体によくないってわかっていたんですよね?」
敏子が口を挟む。
「まあ、なかなか規制できない事情があったんでしょうね」
直樹の母親キルトちゃんが難しい顔で言う。
ちょっと、待ってよ。
これから、家族になろうって、大切な時に、直樹や私の人となりに
ついてではなく、アスベストかよ。
しかも、三笠会館の「榛名」のおいしいフランス料理を食べながら・・・。
「それより、巨人の監督、誰になるんだろう?」
私が無理に話題を変えようとしたら、また、フォークとナイフの音だけが
響く静寂が訪れた。